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2011.09.26 / 建築と住まいの話

南町田の家

4月にお引越しをされた南町田の家。
ここで暮らすのは、ご夫婦と高校生の長女という3人家族です。

神社仏閣などの日本建築がお好きで、世界遺産を巡る旅にもよく行かれるというご家族は、家づくりについてもたいへん熱心でした。
計画の初期には幾つかの住宅会社とも家づくりを進めておられたようですが、
奥様のご兄弟が当社で家を建てられた縁で、ご兄弟からの勧めもあって
当社の見学会やセミナーにも参加されていました。

敷地は私鉄沿線の良好な住環境の一角で、新たに宅地分譲された場所です。
面積としては十分な広さがありましたが、
東側の道路に対する間口が約8m、奥行きが21mという東西に細長い敷地で、
隣に家が建つと1階での日当りはあまり期待できませんでした。
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そんな敷地の特性に対する解答が、この家をプランニングする際の大きなテーマでした。

このような場合、一つの解決方法は2階リビングの「逆転プラン」です。
これは1階の日当たりには目をつぶって、そこに寝室や浴室などを配し、
日当たりの期待できる2階に家族のスペースを設けるプランです。

しかし高齢になった場合に不安があることなどから、お施主様は1階リビングを望まれました。

そこで提案したのが、大きめの中庭を囲む形の「コの字」プランです。
これは京都など伝統的な町屋の形状に通じるもので、彩光はもちろん風通しのよさが大きな特長です。

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四角い家に比べると、ひとつながりの広い空間はつくれませんが、仲の良いお施主様ご家族を見ていると、空間が多少分かれていてもコミュニケーションに問題はないだろうという判断もありました。


空間的には中庭越しに自分の家(他の部屋)を眺められる気持ちの良さがあり、
その中庭を含めた内外空間の連続性に、日本的な空間構成を感じることができます。
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町家では中庭に池や植栽を配して、自然を愛でたり、
水分の蒸発によるドラフト効果で暑さを逃がすなどの役割がありましたが、
現代では、部屋の続きとして使えるウッドデッキが最適でしょう。

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床が連続する様は部屋を広く感じさせる効果もありますし、
リビングの開口部には全開サッシを設けて実際にデッキまでが一つのリビングになります。


もう一つのテーマは、空間の中に「和」のデザインを散りばめることです。

お施主様は、当社コンセプトハウスの造作家具などを気に入られたり、
住宅雑誌で見つけた素敵な建具を所望されたりしたので、
そうしたデザインを随所に採用しつつ、全体のバランスを図りました。


玄関では下足箱の扉に真っ黒な漆和紙を貼り、
漆喰の壁、桧の天井との取り合わせがシックでお店のような雰囲気をつくっています。
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玄関からダイニングへの入口には枡組みのガラス格子戸を採用しました。
伝統的な和のデザインでありながら、モダンな木の空間にも合う不思議な建具です。
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ダイニングの照明とキッチンの手元灯には、
薄い木のシェードからこぼれる光が美しいヤコブソンランプを吊下げました。

北欧デザインの家具や照明は日本建築にもよく合います。
照明に合わせて柿色の鳥の子紙を貼った食器棚の引戸も、空間に彩りを添えています。

キッチン隣りのユーティリティに洗濯機を移すことで
洗面所は巾いっぱいのカウンターに四角い洗面ボウルを置き、
大きな鏡とブルーグレーのボーダータイル、シンプルな棚板で落ち着いた雰囲気にまとめ、和の家にも合うホテルライクなパウダールームになりました。
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廊下に面する和室入口と押入の襖には、淡いピンクと純白の鳥の子紙による市松模様の襖を並べ、控えめで優しい和の表情を見せています。


子供部屋の入り口には、淡い緑の市松模様をあしらいました。


客間にもなる2階の和室は、古建築好きのご家族への私からの贈り物です。
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4帖半の和室の一角に付書院をつくり、その背面壁に引分け障子を設けています。

違い棚を省いたり細部は本物と違いますが、
この空間構成は京都の慈照寺にある東求堂「同仁斎」を再現したものです。

同仁斎は足利義政の書斎であり、
書院造りや数寄屋(茶室)の源流とも言われている日本建築史上貴重な遺構です。

引分け障子を少し開けると外の景色が掛け軸のように見える見立てが素晴らしく、
お施主様にもたいへん喜ばれました。

左端が観音殿(通称、銀閣)右手前が東求堂
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南町田の家は、湘南リビング新聞社発行の情報誌
「湘南・こだわりの住まい2011秋」に掲載されます。

岸 未希亜

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