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2011.11.27 / 建築と住まいの話

相模原の家

「アーティストの暮らしを包む段勾配の家」と命名している相模原の家。
ここで暮らすのは、
仕事をリタイアされた後も活き活きと毎日をお過ごしになっているご夫婦です。

ご主人は音響機器の開発に携わっていた技術者で、
ご自宅にはアンプやスピーカーが所狭しと並んでいます。
さらに自転車やスポーツカーも乗り回すほどエネルギッシュで、
「趣味人」という言葉がぴったりな方です。

奥様は学生時代から今日まで絵を描くことを続けて来られ、
趣味の域にとどまらないライフワークとなっています。
奥様もまた、美的感覚に優れた「趣味人」に違いありません。
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そんなお二人がこれからの暮らしをより豊かなものにするため、
永年住み慣れた家を壊しての建て替え計画となりました。

以前のお住まいは、大きな吹抜けのリビングに少し急な2階への階段が架かっている住宅で、
非常にユニークかつ豊かな空間でしたが、
台所、浴室、トイレ等の設備はさすがに古さを感じさせ、
収納も少ないために部屋はぎっしりと物で埋め尽くされていました。

ご夫妻の息子さん夫婦が当社で家を建てたご縁もあり、
完成したコンセプトハウスを気に入られたご夫妻との家づくりが本格的に始まりました。


この家のテーマを大きく3つに分けてみました。

一つ目は家の形、外観を特徴的なものにしたことです。


敷地は、交通量の多い国道から少し入った住宅地で、東南角地のために恵まれた日照条件です。

角地でアイ・ストップになることに加え、隣家の庭に面する北側からも見えるため、
よく目立つのは間違いありません。
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感性の豊かなご夫妻は「ふつうの家では満足しないだろう」と考えていた私は、
ちょうど北側斜線と道路斜線の影響により、屋根が窮屈な形に追い込まれる状況を逆手にとりました。
2方向からの片流れ屋根を、途中から勾配が緩くなる2段勾配にして
頂点で一つに結ぶ個性的な形は、こうして誕生しました。

二つ目は、「趣味を愉しむ」ための空間です。
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ご主人の希望は、音楽を聴いたり、趣味に時間を費やすことのできる部屋でした。

壁面収納を造り付けて多くの品を収納するとともに、床・壁・天井を板張りにし、
防音ドアも設けてオーディオルームとしても使用します。
流しや冷蔵庫も備えて「籠もる」ことのできる空間です。

奥様の希望は、絵を描いたり本を読んだりできるアトリエ兼寝室でした。

寝室も兼ねるアトリエは畳敷きで、
作業台となる造り付けカウンターを備えています。
本棚には画集や資料、扉付収納、窓下の地袋には画材を収め、
衣類はウォークインクローゼットに収納します。


他に、車庫と2階の洗面・浴室の間に挟まれた天井高1350の空間に、
6帖の床下納戸を設けて階段の踊り場から入れるようにしました。

余分な物はここに収納して、部屋をすっきり
片付けてもらうためです。


三つ目は、「ゲストをもてなす」ための空間です。
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先ずは玄関。1,2階の間取りを考えた時に、北側に階段を配置するのがベストなのですが、
道路側に玄関を取ると廊下が長くなるのが嫌でした。

そこで、下駄箱の格子戸と明かり障子を左に見ながら、那智黒洗い出しの土間で靴を脱ぎ、
間接照明を仕込んだ吊収納の襖も色鮮やかに、畳廊下の上を歩く・・・
という料亭のような玄関にしつらえました。
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玄関から直に入る和室はゲストルームです。

無節の桧柱を使い、杉磨き丸太の床柱と杉面皮の
相手柱で床の間を構成しました。

内法長押を回したり、吹き寄せの竿縁天井という
伝統的な意匠を採用しながら、
天井の一部にアクリル板を入れた建築化照明も綺麗です。


2階では「お孫さんやお友達が集まってもゆったり過ごせる明るいダイニング・キッチン」
を叶えるため、屋根なりに天井が高くなっている南側にダイニングを配し、
その横に対面キッチンを並べました。

コーナーの出窓は視界が広がるため開放感に溢れ、対角線にかかる大きな梁が力強さを感じさせます。

近々、この梁の上にはスノコ状のロフトを造り、筏が浮遊するように宙に浮かびます。
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桧板張りの浴室は自分たちのための贅沢ですが、
同時に、ゲストをもてなすための空間でもあります。
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住宅の設計には普遍性が必要だと思うのですが、同時に住まい手の暮らし方や感性によって違いをつくることも大切です。その違いが少し強く出ているのは、住まい手の個性によるところが大きいのです。

相模原の家は、リクルート発行「神奈川の注文住宅 2011秋冬」
に掲載されました。


★予告していた「藤沢の家」は、
 2011年最終号として年末にお届けすることにしました。
 お楽しみに!

岸 未希亜

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