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2012.08.31 / 建築と住まいの話

湯どの庵

先日、2年点検で平塚市のお宅に伺いました。

この家は、私が神奈川エコハウスに入って最初に契約していただいた住宅のため、たいへん思い出深い仕事です。たまたまご主人が自分と同じ高校の卒業生で大先輩であったこと、奥様が建築好きでいろいろと話が合ったことなど、運命的なものがあったような気がします(笑)

奥様からは「ありきたりの家は嫌だわ」と、生活面からの要望以上に建築的な面白さを求められました。新築する家は、エアサイクル工法によって今の住まいより快適性が増すのは確かなので、暮らしていて楽しくなるような、招いたお友達にも楽しんでもらえるような空間を考えることに注力したのです。

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そこでこの家の主役にしたのが、ダイニングでした。なぜなら、成人している子供との団らんは主に食事の時間であり、また奥様が友達をお招きする時は、ダイニングでお茶を飲みながら話をして過ごすことが多いからです。しかも、時にはキッチンとダイニングを囲んで料理教室のようなこともするという話をお聞きしたので、ダイニングで椅子に座った人の目線と、キッチンに立つ人の目線を同じ高さにしようと、「ステップフロアダイニング」を考案しました。造り付けのベンチに腰掛けると、家じゅうが見渡せるのと同時に庭木が間近に見えて、たいへん気持ちのよいコーナーになっています。

さて前置きが長くなりましたが、主寝室にまつわるエピソードを紹介します。
主寝室は畳敷きなのですが、「単純な和室ではなく和モダンの旅館のようなイメージにしたい」という奥様からの要望があり、遊び心のある空間として考えた場所の一つです。和モダンの宿が掲載されている雑誌をめくりながら、無理なく造れる寝室のかたちを模索していたところ、一つの宿が目に留まりました。
それが山形県・湯田川温泉にある「湯どの庵」でした。

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凝りに凝ったベッドルームも面白いのですが、あまりにも非日常的な空間では住宅の寝室として落ち着かない面もあると思い、シンプルな構成ながら少し遊び心を感じさせる小上がりの畳敷きにしたのです。地窓には飾り棚を兼ねた戸袋を設けて、障子と簾戸が引き出せるようにしましたが、この簾戸のお陰で夏も涼しい風が入ってくるそうです。

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当時、奥様は「私も湯どの庵には一度行ってみたいと思っていた」とたいへん喜んでくださいましたが、今夏、遂にその「湯どの庵」に泊まられたとのこと。これには私も嬉しくなってしまいました。
「湯どの庵」は、大正末期に建てられた数寄屋建築を湯野浜温泉「亀や」のオーナーが買い取り、家具デザイナーの岩倉榮利氏が中心となって全面改装した宿泊施設です。モダンデザインと機能美を巧みに取り入れながら、和の風情を大切にした空間づくりになっていて、日本人の心を和ませる宿のようです。

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お土産にいただいたパンフレットも、センスのよいこんな素敵な冊子でした。
子供を誰かに預けて夫婦だけで泊まりに行きたい、そんな宿ですね。

岸 未希亜

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