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2012.09.19 / 建築と住まいの話

伊礼さんの小さな家

皆さんは「小さな家」にどんなイメージをお持ちですか?
予算さえあれば「小さな家」よりは「大きな家」の方がいい、と思っていませんか?確かに「ふつうの家」を小さくしただけでは決して住みよくはありません。
しかし小さな家であっても、住み心地がよく、愛着をもって大切に住み続けたくなる家はあります。
そんな「小さな家」をつくる第一人者が建築家の伊礼智さんです。先月、その伊礼さんが設計した住宅を見る機会があったので、ここに紹介します。

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この家は住宅地の一角に建つモデルハウスなのですが、まずは延床面積25.5坪という建物のコンパクトさが目を引きます。敷地は約34坪という狭さですが、建物を敷地いっぱいに膨らませず、植栽のスペースを確保しながら慎ましく建っている姿に好感が持てました。

そして気がつくのが窓の少なさ。一般の家に窓が多いのは、建て主に「暗い」とクレームをつけられないよう無難に窓を増やしている、という指摘は当たらずとも遠からず。しっかり吟味して本当に必要な所にだけ窓をつけると、室内からの景色も印象的になり、壁が増えることで空間に落ち着きが生まれるのです。決して外観をカッコよくするためだけではありません(笑)

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この家は、前面道路の交通量が多いことに加え、道路を挟んだ向かいに緑豊かな病院の敷地があって借景にできるため、リビングなどの家族空間を2階に配した逆転プランになっています。

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1階は収納を含めて1坪のコンパクトな玄関、6畳の和室(夫婦の寝室)、家具で仕切れば2部屋に分かれる10.5畳の子供室、トイレで構成されています。外物置を含めて12.5坪しかありませんが、逆に敷地の余白が多いため、子供室南側に濡れ縁と細長い庭があったり、和室西側のデッキ前にも植栽があって、道路向こうの森へと空間が連続し、窮屈さを感じませんでした。

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2階はリビング、ダイニングキッチン、2畳の和室、洗面室、浴室が13坪の中に凝縮されています。
最初に目に飛び込むのは、大きな開口部からの景色です。木製サッシが全開するため、リビングとバルコニーは内外の区別なく一体の空間になっていて圧倒的な開放感があります。
LDK全体で14畳しかないため、リビングとダイニングに明確な区別はありませんが、書斎コーナーがあったり、壁を背に座れる小さなソファがあったり、低い壁で囲われた2畳の和室とつながっていたりして、家族の居場所が散りばめられています。
天井の構成や高さ、壁を多くして窓を絞っていることなど、伊礼さんの手による幾つもの仕掛けで、本当に居心地のよい空間がつくられていました。

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リビングを中心としたワンルームの北側に、洗面所と浴室があります。ハーフユニットを使ったサワラ板張りの空間で清々しい空気感でした。2つあるのが半ば常識のようになっているトイレを1階のみにしているのも、小さな家をつくる上では大切なポイントでしょう。

伊礼さんは延床面積15坪の家をはじめ、20坪に満たない家を幾つも設計しています。その経験から、20坪くらいあれば4人家族で何とか住める家になり、25坪くらいあれば豊かな暮らしができる、との考えをお持ちです。
と同時に、小さな家は住まい手の「住むチカラ」が大切で、そのために設計者は「住むチカラ」を喚起する小さな居場所を用意することが重要だということです。

少しでも大きな家を安く建てるより、坪当たりのコストを高くして質を上げた方が心地よく暮らせるのは間違いありません。限られた予算で満足のいく家を建てるためにも、価値の指標を広さだけに求めず、「小さな家」にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

そのためにも私たちは、住まい手をワクワクさせるようなスキルを磨いていきたいと思います。

岸 未希亜

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