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2013.05.29 / 建築と住まいの話

卒業旅行で巡る日本の町並み1

「卒業旅行」って懐かしい響きですね。皆さんはどこに行きましたか?イタリア、アメリカ、中国など、海外旅行に行かれた方も多かったことでしょう。しかし今から約17年前、私の卒業旅行は国内の独り旅でした。異色の卒業旅行でしたが、独り旅は気を遣わないしマイペースで移動できるので、自分にとっては快適そのものだったと記憶しています。

私が見て回ったのは「日本の町並み」でした。以前のブログでお伝えしたように、日本にはまだまだ多くの古い町並みが残っています。高度経済成長期やバブル景気の煽りで、保存よりも開発が押し進められる時期を乗り越え、現在では観光資源として積極的に保存が進められているぐらいです。

sotsu_guid.jpg   その当時、行き先を決めるのに使ったガイドブックです

大学生になって友人と初めて高山(岐阜県)を訪れた時は衝撃でした。映画のセットみたいな町が現実に残っているということに驚き、神社仏閣や古民家(農家)のような単体建築ではなく、群体として古い建物が残されていることの意味、そしてそこに大きなエネルギーを感じました。
また学生時代に、建築家・吉田桂二さんが町並みを描いた絵本を手にする機会があり、多くの町並みが残っていることに驚き、桂二さん(彼を知る人は皆、親しみを込めてこう呼びます)の絵の上手さに感心し、こうした町並みとの関わりの中で仕事をしている建築家の存在を知りました。
そして幸運にも、桂二さんが仕事場にしている設計事務所に就職できることになり、一つでも多くの言葉、価値観を共有したいという思いから、町並みを見て歩く独り旅に向かったのだと思います。

sotsu_map1.jpg   卒業旅行ルートマップ(訪れた町にアンダーラインを引いています)

旅は2/25の夜、大垣行き夜行列車から始まりました。この「大垣夜行」は青春18きっぷ利用者を中心に有名な普通列車で、品川駅を23時半頃に出発して大垣駅(岐阜県)に7時頃に着くというダイヤで、時間を無駄なく使いたい自分にぴったりの電車です。この日は寒く、降り始めた雨が雪に変わっていた品川駅に着くと、思った以上に乗車待ちの列が作られていましたが、何とか席を確保して出発することができました。

余談ですが、この旅の直後にあたる3/16のダイヤ改正で、長らく愛されたこの「大垣夜行」は全車指定席の快速電車「ムーンライトながら」に置き換わりました。鉄道好きな自分にとっては、これも思い出の一つになりました。

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電車が2/26早朝に大垣駅に着くと、米原行きの東海道線に乗り換えます。大垣―米原は比較的短い距離なのですが、JR東海とJR西日本の境にあたる場所なので、夜行列車と関係なく常に乗り換えが必要です。そして米原で電車を乗り継いで琵琶湖の南岸に沿って進み、初めに訪れたのが彦根城でした。

旅の目的である古い町並みとは違いますが、城好きでもある自分にとって、国宝の彦根城を外すことなどできません(笑)。国内に現存する本物の天守閣は12しかなく、自分はまだ姫路城しか見たことがなかったのです。

sotsu_hikone2.jpg   本来、見えていたであろう山頂の彦根城天守閣

ところが彦根城天守閣はこの時、改修工事のために仮設小屋ですっぽりと覆われていたのです。インターネット普及以前だったので、情報収集にも限界がありました。駅から正面に見える小高い森の頂に、白いテントのようなものが建っているのを見た時の言い知れぬショックを、この原稿を書きながら思い出しました(笑)

次に訪れたのは近江商人発祥の地の一つである「五個荘(ごかのしょう)」です。

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駅でレンタサイクルを借りて長閑な田舎道を進むと、小さな掘に沿って板塀や白壁の土蔵が並んでいました。近江商人屋敷(歴史民俗資料館)は休館中でしたが、その先に入母屋の茅葺屋根と瓦屋根を組み合わせた民家が多く見られました。

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平日の昼下がりということもあり、人の気配がなく静寂に包まれた町でしたが、この2年半後に重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)に選定されました。

次に訪れたのは、やはり近江商人の故郷として知られる「近江八幡(おうみはちまん)」です。豊臣秀次が安土の城下町を移して建設し、秀次の失脚によって一時衰退するものの、近江商人の商業活動の中心として発展した商家町で、平成3年には重伝建地区に選定されました。

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旧市街地のメインストリートである新町通りは、豪商の旧西川家住宅をはじめとした古くて質のよい町屋が建ち並ぶ一級の町並みです。また、琵琶湖から引かれた水路に面して土蔵群が並ぶ八幡掘は、琵琶湖を往来する船に荷を積み下ろす中継地としての名残りを止め、タイムスリップしたような錯覚を起こします。時代劇の撮影場所として使われることも多く、皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか。

初日は以上の3ヶ所を巡りました(つづく)

岸 未希亜

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