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2013.07.23 / 建築と住まいの話

卒業旅行で巡る日本の町並み3

17年前の卒業旅行を再現する町並み歩きの第三弾です。
今日は4日目の行程をお送りします。

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矢掛の町を訪れた3日目は、JR伯備線を北上して「高梁(たかはし)」で1泊しました。伯備線(はくびせん)は備前・備中(岡山県)と伯耆(鳥取県)を結ぶ路線で、昔の地名が偲ばれます。
さて明日はここ高梁から西へ約10kmの山道を登って「吹屋(ふきや)」を訪れますが、バスが一日3往復しかないため、帰りのバス時刻を基準に時間割を組み立てました。朝1時間余り高梁を散策してから、タクシーで吹屋へ行き2時間半の見学。バスに1時間揺られて高梁に戻ると再び1時間程度の散策をし、電車で倉敷へと戻ります。

前の晩に下見をしておいたので、朝8時半から約1時間余り、高梁の町を無駄なく歩きました。高梁には現存する十二の旧天守の一つである備中松山城(高梁城)がありますが、急峻な山上に天守があるため、短い滞在時間では見学が叶いませんでした。城好きの自分にとっては正に苦渋の選択(笑)。

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山と山に挟まれた高梁は、谷あいを南北に流れる高梁川に沿って城下町が築かれました。中世以来、地域の重要地点として自然に人が集まり、豊臣秀吉の中国攻めの舞台にもなった高梁ですが、江戸時代を中心に、上流の新見(にいみ)から瀬戸内海へ抜ける物資運搬の中継地として大いに栄えました。本町通りというメインストリートを中心に、古い町家や立派な商家が残っていて、素朴ながらも見応えがあります。高梁川に流れ込む紺屋川沿いには土蔵や町家が並び、石積み護岸との相性もよく、絵になる風景でした。

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「吹屋」からバスで戻った後、武家屋敷通りを訪れました。城に近い山裾の一帯が武家屋敷のエリアになっていて、土塀や門構えのある通りは往時の雰囲気を残していますが、肝心の屋敷が無くなって空地になっているところも多く、少し寂しい感じがしました。(写真:臥牛山の山頂に天守閣が見えます!)


次に訪れたのは鉱山町である「吹屋(ふきや)」です。前述のようにタクシーを30分以上走らせたので、料金メーターが上がり続けてドキドキでした(笑)。なかなか辿り着けずに不安になった頃、山中にあるとは思えないほど完成度の高い町並みが現われます。正にタイムスリップしたような錯覚に陥りました。

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吹屋は江戸時代、銅を産出することで生まれた町でしたが、鉱脈を掘り尽くすと捨て去られるのが鉱山町の宿命です。いよいよ銅が掘り尽くされた時、銅精製の際に生じる廃棄物であった酸化鉄から「紅殻(べんがら)」を取ることを思いつき、町に残された人たちが金を出し合って自分たちの運命を賭けたそうです。「紅殻」は建物の木部に塗ったり、漆器の着色や染色などに用いられた赤い顔料で、上方(京都・大阪)での需要が高く、町は銅山時代よりも遥かに繁栄しました。

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妻入り屋根の家が存在感を放つ町並みには、所々に赤い壁の家が見られますが、これは漆喰に紅殻を混ぜて塗ったものです。また、どの家の屋根も赤茶色の瓦を葺いているのが目を引きます。この瓦は、雪の多い山陰でも寒さに耐えられるよう釉薬に塩を使った塩焼瓦で、「石見瓦(いわみがわら)」と呼ばれます。この赤い瓦がつくる町並みはどこか華やかで、ヨーロッパの町並みを彷彿とさせます。吹屋は重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)になっていますが、どこか「日本らしからぬ景観」にも感じました。


4日目の最後は、これも重伝建地区に選ばれている「倉敷(くらしき)」です。
古い町並みに疎い人でも、両岸を石垣で固めたお堀沿いの景観はご存知でしょう。

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「お堀」に見える倉敷川は、かつて海がすぐ近くにあった頃、瀬戸内海を往来した船を引き入れる海港の役割を果たしました。商業流通の拠点として大いに栄えた面影は、川の両岸に建ち並ぶ商家や蔵屋敷から想像できます。この美観地区と呼ばれるエリアには、明治時代の洋館やギリシャ神殿のような大原美術館が建っていたり、紡績工場の建物をそのまま利用してホテルやレストランにした「倉敷アイビースクエア」が隣り合っていて、多くの観光客を集めています。

私自身も中学卒業の時に一度、この美観地区は見たことがあったのですが、当時はその裏側にも風情のある町並みが残っていることは知りませんでした。

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かつてのメインストリートだった本町通り沿いや、その路地を入った所にも絵になる町家や土蔵が見られます。倉敷の商家は「倉敷窓」と称される角型の格子窓、格子を漆喰で塗り回した虫籠窓などと共に、海鼠壁(なまこかべ:風雨から壁を守るために瓦を貼ったもの)が数多く見られるのが特徴です。特に海鼠壁の土蔵群は美しく、機能が美に昇華する感性と歴史の重さを感じずにはいられません。

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夕方の短い時間だけでは町を回り切れず、翌朝も倉敷の町並みをひと歩きしてから、次の目的地へと向かいました。(つづく)

岸 未希亜

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