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2015.12.20 / 建築と住まいの話

信州の町並み2 海野宿

4月下旬のブログで「長野県との縁が深い私ですので、今回から信州の町並みを少しずつ紹介していきたいと思います」と書きました。あれから8ヶ月が経ち、漸く第二弾をお届けする余裕が生まれました(笑)
すっかり忘れてしまった方は、第一弾の「稲荷山:千曲市」をご覧ください。 

今日紹介するのは「海野宿(うんのじゅく)」です。海野宿は、全長約650mもある町並みの中に、「宿場町」「養蚕町」という2つの顔をもっています。

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一つ目は北国街道の宿場町としての顔です。
江戸と京都を結ぶ街道のうち「中山道」は、碓氷峠や和田峠、木曽の山中などの険しい道が多い反面、東海道のように大河を渡る(渡し賃がかかる/大雨で川止めを食らう)必要がないという利点から、利用する旅人が多かったそうです。また、中山道から分岐して日本海側へ至る脇街道が幾つもあり、北国と江戸・京都を結ぶ役割も果たしていました。

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そのような脇街道の一つである北国街道(北国脇往還、善光寺街道とも呼ばれる)は、中山道20番目の追分宿から分岐して善光寺(長野市)を経由し、越後(新潟県)の直江津で北陸道に合流します。
追分宿(軽井沢町)を出ると、小諸宿(小諸市)―田中宿・海野宿(東御市)―上田宿(上田市)と続くのですが、海野宿は元来、田中宿と上田宿の「間(あい)の宿」で、問屋だけが置かれ伝馬の仕事を行っていました。しかし寛保2(1742)年、千曲川の氾濫で田中宿が壊滅状態に陥ったことにより、本陣が海野に移されて正規の宿場になります。佐渡で採れた金の輸送、参勤交代で通る北陸大名の往来、善光寺への参詣客などで、北国街道の宿場は大いに賑わったそうです。

旧北国街道と国道18号線は、重なる部分や並行する部分が多いので交通量も多くなり、小諸や上田には古い建物は僅かしか残っていません。それに対して海野宿は、バイパス道路から外れたことが幸いし、重要伝統的建造物群保存地区に選定されるだけの立派な町並みが残りました。

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海野宿の小諸側(東側)には神社があり、樹齢700年と言われる欅の大木が旅人を迎えます。道は境内に沿って大きく右に回り込み、そこから道路が広くなります。

unno04.jpg 道の奥に見えるのが神社の大木

中央付近を流れる水路と柳の並木が、道を2つ(車道と歩道)に分ける格好になっているのですが、往還と呼ばれた北側の広い道を参勤交代の大名が通り、日陰側と呼ばれた南側の道は、馬をつないだり荷を置いたりしていたそうです。この水路と柳並木を見れば、ここが「海野宿」だと分かるぐらい特徴的な景観です。

建ち並ぶ家を見てみると、家の造りが一様ではないことに気付きます。

unno05.jpg 右手前が出桁造りの旅籠。奥の家には立派な卯建が出ている

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切妻屋根の「平入り」、天井高さを抑えた「つし二階」、2階がせり出して1階よりも少し前に出ている「出桁造り」は中山道の旅籠(はたご)がもつ特徴で、宿場町の名残りです。出桁造りは少しでも2階を広く使おうとした工夫であり、旅人の雨宿りにも有効でした。家の両端に「卯建(うだつ)」のある家も見られます。

もう一方は、2階屋根の上に小さな屋根を載せている家です。

unno07.jpg 左手前が煙抜きの越屋根をもつ家。その奥は出桁造り

こちらは出桁造りと違って背の高い2階建てで、外壁を漆喰で塗り込めた「塗屋造り」の家が多く見られます。煙出しの越屋根が特徴で、これが養蚕町として繁栄した海野宿の二つ目の顔です。

unno08.jpg 元は茅葺き屋根の家も養蚕のための越屋根をもつ

明治21(1888)年に国鉄信越線(現:しなの鉄道)が開通すると、宿場はたちまち衰退しましたが、それを救ったのが養蚕種紙の生産でした。繭をつくって中で蛹(さなぎ)になった蚕は、そのまま出荷されて製糸工場で捨てられてしまうため、養蚕農家は毎年、養蚕種紙を買って蚕を育てます。
海野宿では、宿場の大部屋を蚕室にして養蚕種紙を生産していましたが、その品質の良さが評判になって宿場全体が潤いました。この時に多くの旅籠が種紙生産に適した家に建て替えられたようで、豪壮な「卯建(うだつ)」が造られた家もあり、往時の繁栄が偲ばれます。

鉄道敷設によって宿場町が廃れた後、強かに復活する様は、同じ北国街道の「稲荷山」と重なり、たいへん興味深いですね。

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水路の清流と柳並木が潤いを与える海野宿は、観光客も少なく、往時の姿をよく止めた静かな町です。NHK大河ドラマ「真田丸」が始まると、上田市周辺に観光客が溢れると思いますので、静かな町並みを堪能するなら今のうちです(笑)
宿場の顔と養蚕の顔を見分けに、ぜひ訪ねてみてください。

岸 未希亜

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